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卓球と打球音~打球音から球の回転量はどこまで分かるのか?~

卓球では、サーブを出すときに足音を立てる人が多いです。これには主に2つの理由があります。

  1. 体重移動を意識してサーブを出すと、移動後の身体を足で支える際に音が出てしまう
  2. サーブを出す際の打球音をかき消すため

特に2つ目の理由は、相手にサーブの情報を与えないという意味で重要です。

卓球の打球は主にフラット系スピン系に分けられますが、それぞれ以下のような理由により打球音が変わってきます。それによって打球の回転量について、一定の推測をすることができるのです。

  • フラット系 → 球がラケットの木材部分に到達するまでラバーが食い込む → 木材部分の音がする
  • スピン系 → 球をラバーでキャッチ&リリース → 木材部分の音がしない(しにくい)

この分類は大雑把で、細かく分ければもっと色々な打球音の原理・パターンが考えられます。それは打ち出した打球の速度回転数入射角度などによって変わってきます。

それでは、人はこれらの音の違いから、どのぐらい回転量を推測することができるのでしょうか?今回はこれについて検証したいくつかの論文をベースに、解説をしていきたいと思います。

(最後の方では長々と持論を書いています。むしろこちらがメイン)

0.注意点

卓球の打球音と回転の関係にフォーカスした論文は、そんなに多くありません。測定方法の違いなどにより研究者間で整合性がとれない部分もあり、まだまだこれからの分野と言えそうです。

1.視覚情報がある場合

Parkらの研究[1]では、視覚情報を与えられた上で、聴覚情報(音)のある場合・ない場合を比較してみたところ、聴覚情報がある場合の方が球(サーブ)の回転の予測精度が向上するということです。

視覚のみと視覚+聴覚の比較

これは卓球界では当たり前の話で、この論文にももう少し別の実験結果があると思うのですが、論文が有料なので割愛します。

学術論文の世界はちょっと特殊で、論文を購入しても著者には利益が発生しません。興味のある方は「論文 有料問題」などで検索!

2.視覚情報がない場合

続いて音のみで打球の回転量を判別できるかという問題についてです。

Santosらの研究[2]では、プロが打ったフォアドライブの打球音を録音して、その打球音の回転量を被験者に4択(回転量大・回転量中・回転量小・フラット)で選ばせる実験が行われました。

Santosらの実験の模式図

その結果、「フラット」の判別は音のみでも正解率が高い(正答率75%程度)が、「回転量小~大」の区別については正解率が下がりました(正答率各40%前後)。それでも選択肢を当てずっぽうで選んだときの正答率25%を上回っているので、回転量の多少を音だけで判別することもできそうという結果になっています。

3.両者の研究の違い

今回ご紹介した2者の論文は、下記のように測定方法から対象までいくつもの条件が異なっています。

Parkら Santosら
打球 サーブの予測 フォアドライブの予測
予測の内容 回転方向(上・下・横) 回転量
球のスピード 説明なし 一定
被験者の経験 経験10年以上の選手のみ 経験2年以上

なので一概に比較はできないのですが、「打球音による回転量の判断」には一定の裏づけがあることが科学的に示されていると言えます。

4.打球音と回転量予測の現状

Santosらの研究で興味深いのが、(論文のタイトルにもなっていますが)「正答率が競技の経験年数に関係なかった」というところです。

といっても、被験者は最低2年以上の経験者ですが。卓球歴2年の人と10年以上の人とで有意差がなかったということです。

普通は、その道を極めるほど耳が肥えてくるので、回転量の判断精度も上がっていくと考えられます。

実際音楽の世界では、その道でしっかり経験を積んだ人であれば高価な楽器の音色を聞き分けられます(なので「芸能人格付けチェック」のような番組が成り立ちます)。

しかし、卓球でそのような「経験値による打球音判別能力の向上」はなさそう、というのが現段階での結論のようです。あくまでフラットかスピンかの判別がメイン。そのいちばんの理由は、ラケットとラバーの組み合わせが多すぎて、打球音と回転量の法則性を見出せないというところにあるのではないでしょうか。

5.打球音と回転量予測の今後~私の勝手な予想~

打球音がより注目されるようになる?

それでは、上級者が相手の打球の性質をどのように見極めているのかといえば、視覚的情報に頼っているわけです。具体的には、相手の打球フォームや、打球後の球の軌道や回転の様子などです。

ただ、球の軌道や回転などは打球音よりも後に入ってくる情報になるので、打球音で回転量が判別できるのであればより早い判断につながり有利と考えられます。ということで、私は今後、意外と「打球音の研究」が進んでいくのではないかと思ったりしています。

打球音に着目したサービス予想

さらに妄想が続きます。打球音についての研究が進むとして、今後出てくるかもしれないサービスを考えてみました。

  1. ラケットやラバー、接着剤の組み合わせをいろいろ変えて、それぞれでサーブやドライブなどを打ったときの音を収録した、クイズ形式で球の回転量を当てるサイト。
  2. それぞれの音の波形を網羅的に収集・データベース化し、新発売のラケットやラバーの組み合わせによる打球音を予測してくれるサイト。そこから発展して「こんな打球感になりますよ」という予測をしてくれるサイト。もしくは、軌道予測をしてくれるサイト。
  3. 「張本智和のスピード/回転量別・打球音データ」みたいな音声素材を提供するサイト。
  4. 【練習用・思春期男子に人気!】ラバーに圧力センサーを、グリップにスピーカーを内蔵し、スイートスポットで打てたときにいかがわしい音声が再生されるラケット。回転量(圧力のかかり方)によって音声が変化!

そんな時代が来るかどうかと言われれば微妙ですが、金儲けの手段としてはワンチャンあり?

6.最後に

最後の方の内容は、かなり前衛的になってしまいました。9割ぐらいの人にはバカにされるかも。

ただ、ひと昔前までは裏ラバーで打つ無回転性のスマッシュは「非常識」「変態スマッシュ」と蔑まれていましたが、今では「みまパンチ」「ハリパンチ」として地位を確立しているところなどを見ると、つくづく常識って分からないな、と思います。

将来的には、「打球音で全ての回転を見抜くプレイヤー」みたいな新人類が登場するかもしれません。テニスの王子様の領域(目つぶってプレイ)までは、さすがにいかないと思いますが。

現在は「試合前に自分の好きな音楽を聴いて気持ちを上げていく」というアスリートが多いですが、ある日突然「試合前は相手の打球音の種類をひと通り聞いてラリーのイメージをしています」という人が出現したら面白いですね。

参考文献

[1] Differential contribution of visual and auditory information to accurately predict the direction and rotational motion of a visual stimulus, S. H. Park, et al., 2016

[2] Training Level Does Not Affect Auditory Perception of The Magnitude of Ball Spin in Table Tennis, D. P. R. Santos, et al., 2017