卓球でサーブを打つときにはいろいろと細かいルールがありますが、その中に「構えてから投げ上げて打球するまでの間、常に球が見えている状態でなければならない」というものがあります。
これに関して気をつけるべき点を大きく3つに分けると、以下のようになります。
- 構えたときに球を包み込むように握ると球が見えない→手の平に乗せるように置く
- 投げ上げ直前、手が卓球台の下に沈むと球が見えない→手の位置は常に卓球台より上
- 投げ上げてから落下してくる球の手前側に身体の一部が重なると球が見えない→身体で隠れないようにする
このうち、1.と2.は割と明確に判断ができるのでいいのですが、3.の身体で隠れる問題はグレーな部分が多く、指摘しづらいものです。
今回はこのあたりのルールの確認と最近の動向をチェックしていきます。
【目次】
- 現状のルールと実際
- 国際試合のビデオ判定の実例
- 今後はどうなる?
↓動画でしゃべり倒したバージョンはこちらです。
1. 現状のルールと実際
一応、現状の(形式上の)ルールを確認しておきましょう。
2020 ITTF Handbook(ルールブック)によれば、ボディハイドに関する記述は次の2つです。
サーブの開始(構えに入って)からインパクトまでの間、球がサーバーやそのダブルスパートナー、および彼らの衣服や持ち物(ラケットなど)で隠れてはならない
2.6.4条より
2.6.4条は、球が常に見えているように、という内容です。
球を投げ上げたら、サーバーの(トスを上げた方の)腕や手は、球とネットの間の空間内にあってはならない。球とネットの間の空間の定義は、球とネット(の両側の支柱)で形成される(三角形の)図形を鉛直方向に伸ばしてできる(三角柱の)空間である。
2.6.5条より
2.6.5条は、図で表すと以下のような感じ。
この図の緑色の三角柱の空間内にフリーハンドがあったらダメ、ということですね。
ここでひとつ注目したいのが、この三角柱の空間に入ってはいけないのがフリーハンドの腕&手のみに限定されているところです。つまり、球が最初から最後まで見えている限り、頭や胸などの上半身はこの空間に入っても良いという解釈が成り立つ。
フォアハンドサーブを出す際に、この点は非常に重要です。なぜなら、サーブの回転量と安定性を両立させるためには、体重移動が欠かせないから。
そしてその体重移動に最も効果的なのが、投げ上げた球に向かって上半身を接近させつつ、踏み込んで打球するような動作だからです。
おそらく「これ(球が見えていれば頭や胸は入っても良い)を満たせばフォアサーブはまだまだいける!」と考えた第一人者がいて、ギリギリを追求し始めたのでしょう。そのギリギリが世間に広がる中で、いろいろな拡大解釈が生まれてしまったのではないでしょうか。
私がなんとなく聞いたことのある解釈だけでも、以下のようなものがあります。
- レシーバーの立ち位置から見えていれば良い(つまり、右利き相手と左利き相手では上図の三角柱の形が異なるという考え)
- インパクトさえ見えていれば良い(手で隠れるのはだめだが、上半身で隠れるのは仕方ないという考え)
気づけば「みんなやってるからいいでしょ」という風潮になり、元のルールは形骸化しつつありました。
2. 国際試合のビデオ判定
ここで、国際試合でのビデオ判定の事例をご紹介します。
2019年末に行われた卓球ワールドツアーのグランドファイナルでは、TTR(Table Tennis Review)というチャレンジシステムが試験導入されました。
これにはサーブに関する判定機能も多く含まれていました。トスの高さやアングルの判定などです。
そしてその中にはボディハイドに関する判定機能も含まれており、これに世界トップレベルの馬龍選手がたびたび引っかかるという事態になりました。
解説では以下のように述べられています。
(ボディハイド関連の)ルールの意図としては「レシーバーに常に見えるように」ということですが、実際のルールは「両端のネットポストまでの範囲で常に見えるように」です。しかし近年は、この実際のルールに基づいた運用はされていないというのが実情でした。
この判定は、これから馬龍だけでなく、多くのプレイヤーが自身のサーブを見直し、適応していくきっかけになりうる判定です。
今後はフォアサーブに対する考え方がまた少し変わるかもしれない、と感じさせる判定結果となりました。
※「また」というのは、2000年代の「身体で隠すサーブ」が見直されて以来、という意味です。
3. 今後はどうなる?
いちばん明快な解決策は、図の三角柱の空間に(上半身も含めて)何も入らないようにすることでしょうか。これがいちばん分かりやすい。
メリット
- 分かりやすい
- 初心者にも優しい(競技のすそ野が広がる)
デメリット
- 現在のフォアサーブは大幅に制限される
ただ、個人的には国際試合である程度厳格化しつつ、市民大会レベルでは現状維持で進めていけばいいのではないかと思っています。
時代が進めば、国際試合での運用実績をベースにしたテクノロジーが普及するのではないでしょうか。
例えば、ネットの支柱に超小型カメラを内蔵し、各自が違反を検証したいときに「アレ〇サ!今のリプレーで検証して!」とか言えばAIが自動判定する、みたいな。
そんな時代がもうすぐそこまで来ている!かもしれません。……悪くないだろう。。