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許昕が回り込みフォアフリック時にジャンプするのはなぜか

世界的にシェークラケットが主流となりつつある中で、中ペン(中国式ペンラケット)で世界のトップレベルに君臨する、中国の許昕選手。多彩な技で芸術的な卓球を展開する選手です。

今回はその中でも、

バック側の短い球に対して軽くジャンプしつつ回り込み、空中で打球するフォアフリック

に着目してみたいと思います。

…ちょっと言葉で説明するのは難しいので、以下の参考動画をご覧ください。

【参考動画~ジャパンオープン2016男子シングルス決勝より~】

  • 5:00~(クロスへのフリック)
  • 19:20~(ストレートへのフリック)

他にもこれに近い動きをしている箇所がいくつかありますが、上記の2箇所はリプレイ付きで見やすいです。

卓球の台上技術としてはかなり珍しく、インパクトの瞬間に両足が宙に浮いていることが分かります。一見すると派手で違和感があるようにも見えるこの打ち方ですが、やはりそこは世界トップランカーの技術。このような身体の動きをする理由がちゃんとあるのでしょう。

ということで、ここでは私が考える許昕選手の「ジャンプフリック」が合理的である理由をいくつか述べたいと思います。

※この打ち方はペンホルダーの特性を活かしたものといえます。シェークハンドの場合は、クロスに打とうとすると前腕をかなり外に向かってひねる必要があり、窮屈になるのであまり現実的ではないように思います。

※YouTubeで解説を行いました。記事を書いた時期と2年以上のタイムラグがあり、その間、考えたことも含めて話しているため、記事の内容とは少々異なります。

前置き~フリックとは~

フリックは卓球における台上技術のひとつ。相手の打球が自陣で2バウンド以上するような短い球(ショートサーブやストップなど)に対する攻撃的な打ち方です。

フリックという単語自体の意味は

「軽く打つこと、軽くたたくこと、はじくこと、ひょいと動かすこと」

英辞郎 on the WEBより

であり、スマホやタブレットの操作でも使われる用語です。

そしてこの言葉の意味のとおり、スマホのフリックも卓球のフリックも感覚的に似たものとなっています。

  • スマホのフリック:任意の箇所に指を触れ、そこから上下左右に指をはじくように動かす
  • 卓球のフリック:打球点付近にラケットを差し伸べて、そこからはじくように打球する

ともに「静→動」の動きが特徴的です。

卓球のフリックでは、テイクバックがほとんど発生しません。

ジャンプフリックの特徴

通常のフリックの特徴はここでは置いておくとして、ここでは許昕選手のジャンプフリックの特徴を列挙します(動画を見た方が直感的に分かりやすいですが、文字で記しておきます)。

  • バック側の球に対して回り込んでのフォアフリック
  • 打球時に両足が地面から離れている
  • コースを読まれにくく、一撃で決めに行く狙いがある

紹介した動画ではこのフリックが決まる場面が多いですが、ジャンプして回り込んでいるため、どうしても戻りが遅くなります

そのため、コースを読まれて返されると対応できないこともある、ハイリスクハイリターンの技術といえます。

ジャンプフリックの合理性

戻りが遅くなるなら跳ばない方がいいのでは?と考えがちですが、実はこの動き、打球するに当たっては非常に合理的であると思います。

その理由を説明してみます。

1. フラット打ちに適した体勢をつくれる

別記事で紹介したのですが、人間の身体は球の位置によってフラットショットが得意な領域スピンショットが得意な領域に分かれます。

フラットとスピンを打ちやすい身体の位置

通常、フリックしたいと思う球は、スマッシュできないようなバウンドの低い台上の球なので、腰より高く、肩より低い位置にあります。これは上図を見ると分かるとおり、スピン系の球が打ちやすい領域です。

しかしフリックは球をはじく(払う)技術であり、打ち方・球質としてはフラット系に属します。なので、できればフラット系の球が打ちやすい領域で打ちたい。

フラット系の球が打ちやすい領域でフリックするためには、

  • 球が肩より上に来るようにしゃがむ
  • 球が腰より下に来るように跳ねる

のいずれかを行う必要があります。

跳ねる場合としゃがむ場合の打球領域の変化

【左】跳ねる場合
【中央】通常時(アイコンは棒立ちですが、普通に構えたときと考えてください)
【右】しゃがむ場合

このうち、しゃがむ場合は腕の動作としては「上から下へ振り下ろすような動き」の方が自然にできるので、スマッシュに向いています。この「上から下へ振り下ろすような動作」の最たる例がロビング打ちです。

一方、フリックは相手の球の下回転に対抗するために「下から上へ振り上げる要素の動き」が必要になります。そこで、打球前に跳ねて球の位置を腰のあたりにもっていくことで、この「下から上へ振り上げる動き」が達成できるのです。

2. コースを打ち分けるための動作がシンプル

クロスを狙うにしてもストレートを狙うにしても、打球のための基本的な動作である「腕全体を前へ払い出す」という動作を変える必要がありません

※通常のフリックでは、クロスに打つ場合とストレートに打つ場合とで、打球時の手首の向きや肘を支点とした動き、打球後のフォロースルーがかなり変わってくると思います。

この基本動作を保ちつつ、コースの調節は前腕を左右にひねってラケット面を調節するだけでできます。

ジャンプフリック-コースの調節

動作がシンプルであるということは、相手からするとコースの読みにくさにもつながってきます。

3. その他

相手が突然跳ねて迫ってくるので、ちょっとビビる…かもしれない…。

↑これは適当です(笑)

使えるようになったとしても頻繁に使う技術ではないので、相手としては

  • 一瞬虚を突かれる
  • 「来る!」と思って必要以上に身構えてしまう

ということはあるかもしれません。

まとめ

今回は許昕選手のフォアハンドフリックについて分析してみました。ボウリングの投げ方にも似た「下から腕を振り上げる動作」がこんなところで生かされているというのも、卓球の面白いところのひとつだと思います。

ペンラケットで興味のある方は、フットワークの研究をしながら取り組んでみてはいかがでしょうか。