人間は手足を中心にいくつもの関節でできており、そのおかげで様々な複雑な動きをすることが可能です。
- 前後左右の動き
- 曲げ伸ばしの動き
- ひねりの動き
などなど。
そしてそれらの様々な種類の動きのおかげで、人間はラケット競技で多彩なショットを打つことができます。
ここでは、人間の関節の中でも特に腕の関節(&その自由度)について押さえたあと、それらの自由度が卓球にどのように活用されているのかについて見ていきたいと思います。
人間の腕の7つの自由度について
人間の腕から先の部分で、ラケットのスイング軌道に影響を与える関節は肩・肘・手首の3つになります(細かい話をすると、指を動かすことによるラケット面の微調整などもあるかもしれませんが、そこは置いておきます)。
そしてその3つの関節による動きとして、以下の7つの自由度が存在します。
【A】肩の前後の自由度
【B】肩の左右の自由度
【C】上腕をひねることができる自由度
【D】肘を曲げたり伸ばしたりすることができる自由度
【E】前腕をひねることができる自由度
【F】手首を手のひら方向に曲げる自由度
【G】手首を横に動かす自由度
※表現は安川電機ホームページ「ロボットとは?」より引用しています
以下、ひとつずつ見ていきましょう。
それぞれの自由度と卓球での使われ方
【A】肩の前後の自由度
歩くときに腕を前後に振る動き。この前後の動きは、少し脇を空けた状態で行うと「フォア系の技術全般で使われる動き」であることが分かると思います。フォアで威力を出したいときには、この前後方向の動きが重要になります。
【B】肩の左右の自由度
左右の自由度の動きは、卓球では特にスピンをかけたいときに使われます。フォアのループドライブやカット打ち、フォアカットなどでは重要な動きです。
また、バックサーブを出す際にも重要な動きになります。
【C】上腕をひねることができる自由度
特にバックハンドでスピンをかけたいときに重要な動きです。ループドライブを打ったり相手のカットを持ち上げたりする場合に使います。
また、回転のかかったフォアサーブを出す際にも、前腕を動かしています。
肘を90度曲げた状態でこの上腕のひねりをやってみると、それぞれの動きがイメージしやすいかと思います。
【D】肘を曲げたり伸ばしたりすることができる自由度
こちらの動きは、いろいろな技術で威力を出したいときに使っていきます。
- 伸ばした状態から曲げる…順回転系フォアサーブ、フォア系ショット全般など
- 曲げた状態から伸ばす…YGサーブ、バック系ショット全般など
【E】前腕をひねることができる自由度
前腕のひねりは、チキータを含めたバックハンドドライブ系の技術で特に重要です。特にチキータで威力を出すためには、このひねりの動作がかなり求められます。
【F】手首を手のひら方向に曲げる自由度
この動きは、特にサーブやチキータのときに使われます。
一般的なシェークハンドの握り方だと、サーブのときにこの動きを使って球を擦ることができません。そのため、回転をかけやすくするために以下のようにグリップ部分をはずし、親指と人指し指でつまむ(そして残りの指を添える)ような形でサーブを出す場合があります。
このように、卓球のペンラケットとシェークラケットでは握り方の違いにより、ラケット面の向く方向が変わってきます。テニスで言うとイースタングリップとウエスタングリップぐらいの違いがあると思います。それがサーブや台上技術などの「細かな手首の動きが必要な技術」に影響してくるということは、頭に入れておくといいかもしれません。
【G】手首を横に動かす自由度
この動きは意識して行うこともできますが、ラケットをゆるく握った状態から力を込めて握りしめることで、(わずかながら)自然とこの動きが発生します。フォアフリックを打つ瞬間などにこれをやると、ラケット面が安定するとともに打球の威力も上がります。
また、バックハンド系の技術でも「【F】手首を手のひら方向に曲げる自由度」と合わせて複合的に使われるほか、シェークハンドでのしゃがみ込みサーブなど、一部のサーブでも使われる動きです。
まとめ
今回は人間の腕の7つの自由度と、卓球におけるそれら自由度の使われ方についてクローズアップしてみました。
基本的な技術の習得に苦労している方は、打球時にどの関節、どの自由度がはたらいているのかを気にしてみるのもいいでしょう。スマホでプレイ動画を撮影して分析すれば、より客観的に判断することもできます。
また、例えばイップスなどで悩んだときに、これらの動きと卓球の技術との関連性を把握しておくことで、どの部分の動きに問題がありそうか(一部か全部か)、そもそも腕ではなくフットワークや体重移動に問題があるのかなど、切り分けて考えることで問題の本質に近づく可能性もあります。
最後に、競技は違いますが、この記事の話の応用例としてフィギュアスケーターの町田樹選手の言葉を引用し、話を締めくくりたいと思います。
「これが本当に演技につながるの?と思うくらい地味な練習です。筋肉の付き方、関節の動きまで考えながら、どう手足を動かすと筋肉と関節はどうなるのか、自分の身体を分析していく。結果として、自分の身体に敏感になり、ジャンプで失敗しても自分の身体のどこがダメだったのか、どうすれば大丈夫か、自分で分析できるようになりました」
※Sportsnavi 「町田樹 あえて選んだストレスばかりの環境 その決断の真意(2013年10月24日)」より抜粋