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卓球を物理法則・物理現象の観点から考える意義

卓球がうまくなりたいなら練習は絶対必要だけど、物理法則を理解していればより頭脳的でミスの少ないプレーを身につけることができる。

ここではそんな話をしたいと思います。

自然の法則に打ち勝つことは不可能だが、自然の法則を利用して相手を打ち負かすことは可能である。

テニスの法則 科学でゲームに強くなる Howard Brody[著] 常盤泰輔[訳] 10アドバイスより

科学の発展とスポーツ

科学技術の発展により、多くのスポーツで科学的見地からの議論がなされるようになってきました。

これらは技術・戦術の理解に加え、それらをさらに発展させる上で重要な土台となっています。

技術面での例

例えば野球のピッチャーで言うなら、昔だったら「同じ140km/hのストレートでも、ノビのあるものとないものがある」というような曖昧な表現がされていましたが、今ではこれは「ストレートを投げた時にかかるバックスピンの度合」というような形で数値化されてきています。

これによって、ノビのある球を投げるために「バックスピンの回転数」という数値目標を設定することができ、じゃあその目標を達成するためにはどのようなアプローチがあるか、具体的な方法を考えていくことができるようになりました。

戦術面での例

サッカーでも、昔は新聞に掲載される個人ランキングといえば得点ランキングとアシストランキングぐらいでしたが、近年では取得できるデータの量が増え、メディアによっては走行距離やパス受け渡し回数・成功本数・成功率など多くのデータを元にした議論が進みつつあります。

これらのデータをベースとして試合の映像を分析すれば、攻撃の起点が誰なのか、どこから崩すのが現実的か、などが見えてきます。そこからどのような戦術で対抗していくのか、そのためのフォーメーションや選手選考はどうするか、などを考えることができます。

卓球の場合

卓球も同じです。

ラケットやラバーのメーカーは、跳ね返り・しなり・食い込み・球離れなどを計測することでより良い製品を作り出しています。

研究者レベルでは球の回転数などを測定できるようになり、物理現象の解明が進んでいます。

チキータなどの新しい技術は、YouTubeなどにより皆が気軽に真似することができるようになり、爆発的に普及することとなりました。

卓球という競技は、もはや日本ではメジャーな競技になったと言っても過言ではありません。テレビ放送もたびたび見るようになり、そのたびに「卓球がこんなに迫力あるスポーツだったとは」というネットの書き込みを見かけたりします。

それにもかかわらず、その技術や戦術というのは他の競技と比べて理論やデータを元にした議論がまだ少ないように感じます。以下で、テニスと比べて見てみましょう。

卓球の理論化・データ化はあまり進んでいない?

テニスと卓球は「相手コートにより多く返球した方が勝つ」という意味で、競技の性質としては似ています。

しかし、テレビ観戦しているときに画面に表示されるデータの種類はまだまだテニスの方が多いと感じます。サーブのコース、ショットの方向の割合、アンフォーストエラーなどは、卓球でもデータ取得されていてもおかしくないと思うのですが、テニスで表示されるものが卓球では表示されません(2018年現在)。解説者が「ここはフォア前に短いサーブを出したいですね」というようなことを口にしているとおり、戦術を考える上でサーブのコースなどのデータは情報として価値があるはずなのに、です。

戦術イメージ

※図はイメージです

※2020年1月追記

2019年末のITTFグランドファイナルでは、サーブやショットのコースの割合が試験的に表示されていました。今後の主要な大会では表示されるようになりそうです。

参考記事:【コラム】国際卓球連盟がチャレンジシステム導入を決定

また、卓球の書籍では「サーブはこう切る」とか「チキータを打つときは、まずヒジを上げて空間を作り…」などの方法論は多いのですが、なぜそうするのかという理論については説明が少ない気がします。この辺、テニスでは書籍を探すと結構あるんです。でも卓球ではなかなかない。

当サイトでは主にそのようなところに注目し、基本的な物理法則を踏まえながら、ちまたの方法論がなぜ有効なのかを物理的な側面からできる限り解説していきたいと思っています。

物理法則・現象を理解する意義

もちろん、物理法則・現象への理解だけでは強くなれません。練習が大前提で必要です。が、それの理解があるのとないのとでは、ある方が上達が早まる可能性が高いです。

例えば、相手がカットで返してきた球の軌道や回転量が全く同じでも、それを同じようにドライブで返そうとしたときに、頂点で打球した場合と頂点後に打球した場合で、後者がミスになってしまった場合、それはなぜか、という問題を考えます。

単純に「頂点と頂点後では球の高さが違う」というのも理由のひとつでしょう。「頂点と頂点後では、ネットまでの距離が変わってくる」のも、あるいは理由のひとつかもしれません。しかし、それら位置情報の問題だけではありません。

「頂点と頂点後で打球直前の球の進行方向が違う」ことがより大きな理由です。つまり、入射角度が変わることにより、反射角度が変わってしまうということです。

打球位置による発射角度の変化

発射角度が変わってしまうと、その後の打球の軌道がまるで変わってきます。この辺のことが理解できていないと、今度は「頂点後の打球練習」から「頂点での打球練習」に戻したときに、

頂点後のカット打ちに慣れる

球の高さ分だけスイングを補正して頂点で打つ

オーバーミスを連発する

というように今度は頂点での打球がうまくいかなくなり、「なんか卓球は理屈どおりにいかない」と感じてしまうかもしれません。理屈が一部、抜け落ちた状態で考えてしまっているわけです。

もちろん、これらの要因を無意識的・感覚的につかめる人(センスのある人)はいます。しかし、そのような感覚が備わっていない人にとっては、ミスした理由がいまいち分からないまま練習を続けることになり、それが上達を遅らせることにもなると思います。

この辺をしっかり理解してミスの原因を分析することで、状況に応じた的確な打球が打てるようになっていくのではないかと思います。

また、指導者側の立場の場合、この辺を丁寧に説明してあげる(あるいは、本人に考えさせる)ことで芽が出るタイプの選手もいると思うのです。もちろん、その場合は指導者側がある程度、理屈を理解している必要があります。

そう考えると、やはり物理法則や現象を理解することには意義がある、と私は考えています。

卓球を深く楽しむ

最後に、以下はテニスの本からの引用ですが、卓球に関しても同じようなことが言えると思うので、この場で紹介させていただきます。

打ったボールが軌道を描いて相手のコートにバウンドするまでの一連の現象を理解することは、とにかく面白い。コートとラケットと空気は、ボールの速度とスピンと方向にどのような影響を及ぼすか(まさにこれがテニスの本質だ)、また、ストロークやゲームの作戦がなぜ現在の形に発展してきたか、これらを説明できるのは、実際にプレーをすることに匹敵する快感である。正しい知識をもって練習に励めば、すぐに強くなるとは限らないが、より深くテニスを楽しめる。

テクニカル・テニス Rod Cross, Crawford Lindsey[共著] 常盤泰輔[訳] 序文より

当サイトが、より深く、より多角的な視点で卓球を楽しめるきっかけとなれば幸いに思います。