卓球は回転のスポーツと言われています。回転が分からずして勝つことはできません。
そして回転を見極めるための材料として、球のバウンド(とその前後の軌道)があります。特に相手のサーブの回転が分からないときは、球の軌道とバウンドの様子を観察していく必要があります。
今回は、そんな「球のバウンド」が何によって決まるのか。それによってバウンドがどう変わるのか。このあたりを考えていきたいと思います。
なお、基本的な法則の話がメインなので、あまり実戦的なことは書いていません。よろしくお願いいたします。
台上でのバウンドの要因
ここではまず、台上での球のバウンドに影響する4つの要因について解説していきます。
1.球の入射角度
基本的にバウンド直前の球の入射角度が大きいほど、反射角度も大きくなります。理想的には以下の図のように、入射角と反射角は等しくなります。
物理の教科書等で一般的に言われる入射角・反射角は上図【A】の角度なのですが、、テニスや卓球で入射角という場合は上図【B】の方がしっくりくるので、ここでは【B】の角度を入射角・反射角として解説していきます。
実際には反発力や摩擦力の程度により、この角度は変わってきます。
テニスでは水平方向の減速よりも垂直方向の減速の方が小さいらしく、結果として上図の反射角の大きさは入射角よりも大きくなるそうです。
卓球では、ちょっとデータが入手できていないので分かりません。そのうち計測してみようかな。
大事なのは、
- 基本的には入射角が大きいほど、反射角も大きくなる
- 反発力や摩擦力により、エネルギーロスが生じる
という点です。
参考記事:鏡面反射と反発係数
2.球の速さとスピン
球が速ければ速いほど、台上の面に与える影響(反発力・摩擦力)が大きくなり、バウンド方向に影響を与えます。
また、スピンがかかった球も、同様の理由でバウンド方向に影響を与えます。どのような力がはたらいているかは、後述します。
3.球の表面
卓球の球というのは、重さや直径、材質(プラスチック)など、一定の規格を基に製造されています(一応)。しかし、メーカーごとに製造工程が異なるなどの理由でその表面状態はまちまちで、人によって好き嫌いが分かれるところです。
打球時に引っかかりやすい/滑りやすいなどといった違いを感じる方も多いと思いますが、ラケットと球の衝突で違いが出るということは、当然、卓球台と球の衝突(バウンド)でも違いが出るということになります。
4.コート面の硬さと摩擦
これはテニスでは非常に重要なポイントです。テニスではクレーコート、ハードコート、人工芝コートなど複数の種類のコートがあり、それぞれで特徴が大きく異なるからです。「ナダル選手はクレーの王者」などという言葉を耳にするぐらい、コートの性質によってゲームの行方が大幅に左右されます。
卓球ではテニスほど気にする要素ではありませんが、台によって微妙な違いがあります。上級者ほど気にするようです(ただ、それによって戦略がガラリと変わるような話は聞きませんが)。
具体的には、
- 台の厚み
- 台の材質
- 台の表面
などがメーカーごとに異なり、それによって反発力や摩擦力が変わってくるようです。
例えば、
台の厚みが厚い = 安定感があってブレない = 球の威力を吸収しない = よく弾む(反発力が高い)
というような具合です。
ドライブとカットのバウンド
はじめに
ここまでで、台上での球のバウンドに影響する4つの要因について見てきました。このうち、球の材質や台の材質というのは、試合中に突然変わることがほとんどないので置いておきます。
ここでは、
- 球の入射角度
- 球のスピン
の2つに絞って、ドライブ(トップスピン)とカット(バックスピン)のバウンドについて、理論と実際に分けて見ていきます。
その前に、まずはそれらの現象を理解するために重要なマグヌス効果について理解しておきましょう。
マグヌス効果(マグナス効果)とは
飛んでいる球に回転がかかっているときに作用する力で、進路を曲げる効果がある。
- 力の大きさ:球の回転量に比例し、球の速度の2乗に比例する。
- 力の方向:球の前面が回転している方向にかかる
テニスの法則 科学でゲームに強くなるより抜粋
つまり、マグヌス効果によってかかる力の方向は、
- ドライブの場合、下方向
- カットの場合、上方向
ということになります(下図参照)。
これは、ドライブが弧を描きやすいことや、カットの滞空時間が長いことなどから、直感的に理解しやすいと思います。
【A】がドライブ、【B】がカットです。
ドライブのバウンドの理論
1. 垂直方向にかかる力
ドライブの場合、重力に加えてマグヌス効果による下方向の力を受けるため、同じ入射角の無回転の球よりも台の表面に与える力が大きくなります。結果として、その反作用によって無回転の球よりも高くバウンドします。
2. 水平方向にかかる力
水平方向には摩擦力がかかりますが、ドライブの場合は球の進行を妨げない向きに回転がかかっているため、無回転の球と比べると摩擦が発生しにくく、あまり減速しません。そのため、無回転の球と比べると球が伸びてくるように見えます。
まとめ
ドライブは無回転の球と比べると、バウンド後の反射角は小さいのですが、垂直方向にも水平方向にも威力が増したような挙動となります。よって、無回転のときと比べて球が迫って来るように感じます。
カットのバウンドの理論
1.垂直方向にかかる力
カットの場合、マグヌス効果の力は重力を打ち消す方向(上方向)にはたらくので、台の表面に与える力は抑えられます。よって反作用も少なくなり、バウンドも無回転の球と比較して低くなります。
2.水平方向にかかる力
ドライブの回転方向が球の進行を妨げないのに対して、カットの回転方向は進行方向に逆らうような摩擦力がはたらきます。スキーやスノボで、減速するときに進行方向に対して板を立てることで摩擦が発生するのと同じイメージです。その結果、水平方向の速度は大幅に減速します。
まとめ
バウンドの高さは無回転の球と比較して低くなるのですが、それ以上に摩擦力による減速が顕著に出てくるので、反射角は入射角より大きくなります。特に下回転サーブを受けるときに実感しますが、球にブレーキがかかって止まるような感覚です。
ドライブとカットのバウンドの実際
今までの説明では、ドライブとカットではカットの方が反射角が大きいということだけど、実際は逆じゃない?ドライブの反射角が大きくて、カットは沈むから反射角が小さいイメージがある。
このように感じた方がいるかもしれませんが、これはまさにその通りです。
というのも、一般には下図のように、ドライブは弧線を描くような軌道になりますが、カットは直線性の強い軌道になります。この2つのバウンド直前の角度(入射角)に注目してください。
【A】ドライブ=弧線を描く
【B】カット=直線性が強い
図から分かるとおり、もともとドライブは高いバウンドをするような入射角で台に衝突しているし、カットは比較的、台にすれすれの入射角で衝突しているわけです。
それぞれの軌道を重ねてみると、以下の図のようになります。
図を見ると、確かに理論どおり、
- ドライブはバウンド後の反射角は小さくなり、
- カットはバウンド後の反射角が大きくなっている(ちょっと分かりにくいけど)
のですが、そもそもの入射角の大きさが異なるため、プレイヤーからするとドライブの方がカットよりも跳ねるものという認識になるのです。
まとめ
今回は球のスピンによる台上でのバウンドの変化について解説してみました。
卓球というスポーツは、特にサーブに関しては「相手をだますスポーツ」と言ってしまっても過言ではありませんが、バウンドを制御したり、その様子を見るのもサーブの「ごまかし」やその「見極め」には重要になってきます。
近年ではサーブを分かりにくくするにあたり、スイングを分かりにくくしたりフォロースルーを工夫したりする以外にも、「軌道やバウンドを似せる」という視点が重要視されるようになってきました。
ここまでで述べてきたように、球の入射角や回転・スピードでバウンドや軌道は変わります。そんな中で、異なる種類のサーブをどのような発想で似せていくのか。考えるきっかけになればと思います。
参考図書
テニスの法則 科学でゲームに強くなる, Howard Brody[著], 常盤泰輔[訳], 丸善
テクニカル・テニス, Rod Cross, Crawford Lindsey[共著], 常盤泰輔[訳], 丸善