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卓球におけるサーブイップスとその対処法

今回は物理学とは関係ないのですが、ここでは私のイップス体験も少しだけ交えつつ、卓球におけるイップス(特にサーブイップス)についての概要とサーブイップスだと感じた場合の対処法について書いてみたいと思います。

※本記事は著書「イップス(澤宮優、角川書店)」を参考にしています。

イップスについて

概要

ざっくり書くと、イップスとは、その分野における上級者が繰り返し行ってきた動作が今まで通りできなくなってしまうこと

イップスで悩んでいる人は結構多いらしいですが、原因や対処法などが多岐にわたることもあり、その全体像はまだまだ分かっていません。

イップスは野球やゴルフでの症例が有名だったりしますが、

  • ピアニストが鍵盤を叩けなくなる
  • 美容師がハサミを使えなくなる

など、スポーツに限らず幅広い業界で起こりうる症状です。

ひとつ言えることとしては、「決まった動きを何度も繰り返したときに発症することがある」ということです。

卓球とイップス

このため、テニスや卓球では「状況に応じて身体の動かし方が微妙に変わってくるラリー中のショット」よりも「決まった正確な動きを強いられるサーブ」の方が発症しやすいと思われます。

実際、私自身もサーブに関してはイップスになってしまっています。ある日を境に、それまでいちばん得意だった順横回転サーブが全く出せなくなってしまいました。練習では出せるのに試合になると出せないんですよね。

澤宮優氏の著書「イップス」の中では、日本トップレベルの坂本竜介選手がサーブイップスに苦しめられていたことが紹介されています(残念ながら1ページだけですが)。

本書の大半が野球とゴルフの症例で占められているのですが、近年、競技人口が増加している卓球でもイップスで悩んでいる人は増えているのではないかと私は考えています。

卓球ではサーブイップスが多い?

明確な根拠はないのですが、卓球の各種技術の中でもサーブは特にイップスにかかりやすい技術なのではないかと思います。その理由を2つに分けて説明していきます。

1.決まった動きが求められる

前述しましたが、ラリー中のショットと異なりサーブは相手の球質などに左右されないため、正確な動きで正確なコースへ出す技術が求められます。野球で言うなら、ピッチャーの投球も似たような性質があります。

同じ動作を繰り返しやり続けた結果、使いすぎて突然バグってしまうというイメージです。

2.力加減が求められる

スピードドライブなどと異なり、卓球のサーブはフルパワーで打つ技術ではありません。実はこの「ほどほどの力で行う技術」がイップスになりやすい技術であると言われています。

野球では具体例が多いです。

  • ピッチャーゴロを捕って一塁に投げるときに力の加減が分からなくなり、暴投してしまう
  • ほどほどの球速を要求された打撃投手が調子を崩し、ストライクゾーンに入らなくなってしまう
  • 外野からのレーザービームに定評があるが、二塁から一塁などの短い距離になるとばらつく

卓球だと、例えば同じフォームから下回転サーブとナックルサーブを出そうとする場合、フォームは同じでも力の入れ方が変わってきます。この力の入れ方が制御できなくなって、切れなくなったりバウンドの高いサーブになってしまったりします。

具体的な対処法

ここでは著書「イップス」を参考に、卓球のサーブイップスを克服しうる方法をまとめました。

1.別のサーブを習得する

トッププロの方であれば、複数あるサーブのうちのひとつが出せなくなってしまうというのは致命的かもしれませんが、市民大会レベルであれば別のサーブに活路を見出すのも手です。

イップスは反復練習のやり過ぎによって脳からの指令がうまく伝わらなくなった状態、という見方があります。ちょうど、パソコンがメモリオーバーによってバグるのと似ているそうです。

イップスは練習のしすぎ、同じところをずっと練習をしていくとピークに達する、その後もやりすぎると運動のプログラムが壊れてしまうという理屈である。

イップス 澤宮優 角川書店 イップスのメカニズムより引用

※話の流れで断定的な言い回しになっていますが、ひとつの考え方として紹介されています

それまで得意なサーブが使えなくなってしまうのは痛いですし、新しいサーブの練習だけでなくその後の展開も構築していかなければならないので大変ですが、新しいスタイルが意外とハマる可能性もあります(野球でもポジションのコンバートにより復活を遂げる例があります)。

テニスの場合、サーブの打ち方は実質的には1種類(オーバースローの要領で振り下ろすやつ)しかないので、イップスになると大変だと思います。

その点、卓球の場合は、まずサーブの打ち方の種類が豊富です。

  • 順横回転サーブ
  • 巻き込みサーブ
  • YGサーブ
  • バックサーブ
  • しゃがみ込みサーブ
  • 王子サーブ
  • などなど

そしてそれぞれのサーブで身体の使い方・動かし方が違ってきます。しゃがみ込み系のサーブであれば手首の使い方よりも身体全体の使い方が重要だし、同じ手首を使うにしても順横回転サーブとYGサーブでは動かす方向が違います。

ひとつの運動プログラムがバグってしまっても、他のプログラムにチェンジできるのが卓球の良いところだと私は思います。

私の場合、試合では順横回転サーブのときに手首が固まって思うように動かせなくなるという症状があるので、体幹の回転運動で球に回転をかけやすい巻き込みサーブを軸にした展開へとチェンジしました。手首はおろか、前腕すらほとんど動かしていませんが、そこそこの回転がかかるので、悪くはないです。ただ、その後の展開の練習が不十分で、まだ思うようにはいっていませんけどね。

2.休む

思い切って練習しないのも良いらしいです。ゴルフの世界でも、ツアー中に一切練習しないプロ選手がいるらしい。

前述の「練習しすぎによるバグ」を引き起こさないためと言えるかもしれません。

部活などで休みにくいという人は、以下のような工夫をしてみてはいかがでしょうか。

  • 週1日ぐらいはラケットを握らずサーキットトレーニングなどの体力づくりに励む
  • イップスにかかっている技術は封印して練習する
  • 裏ソフトラバーの人は気分転換に粒高ラバーを使ってみる

ただ、この「休む」ということに関しては、その人の性格による部分が大きいのではないかと私は考えています。

「明日試合だ。最近練習してない。早く卓球したい!」

と思う人もいれば、

「明日試合だ。最近練習してない。不安だ…」

と思う人もいるわけで、

同じ休むにしても、メンタルに与える影響は人によってかなり違うだろうと思われます。

それまでたくさん練習してきた人であれば、技術やフットワークが急激に劣化することはまずないので、イップスに悩んだときに練習を休んでみるというのはひとつの有効な手段になるかもしれません。

3.得意なことをする

イップスになると気持ちがネガティブになってしまうので、イップスの影響を受けていないはずの他の技術のパフォーマンスも低下してしまうことがあります。

そこで、自分が自信を持っていること(卓球以外)に取り組んでみるという方法があります。

これによって成功体験を獲得し、良い精神状態をそのまま卓球に持ち込むわけです。学業でも趣味でも、なんでもいいと思います。

ただ、その「別の得意なこと」で万が一ミスってしまった場合、踏んだり蹴ったりになってしまう可能性もあるので、そこはなかなか難しいところです。目標設定をほどほどにするか、失敗しない性質のもの(ジグソーパズルとか)を選ぶのが良いと思います。

まとめ

イップスによる影響は人それぞれですが、場合によってはそれで競技人生に幕を下ろしてしまう可能性もある深刻な症状です。

昔はノーコンなどと揶揄されるばかりでしたが、近年は徐々にイップスについての原因の究明と世間の理解が進みつつあります。世間の理解についてはまだまだ、っていう気もしますが。

もしあなたがイップスで悩んでいて、今回の話の内容が少しでも参考になったなら幸いです。

参考図書

イップス 魔病を乗り越えたアスリートたち

※この記事を執筆する際に参考にさせていただいた書籍ですが、卓球の症例こそ少ないものの、かなり骨太な内容になっています。イップスについてより深く理解したい場合、大変おすすめな本です。