はじめに
卓球ではドライブ回転をかけた打球のことを単に「ドライブ」と言います。
テニスで言う「トップスピン」のことで、打球の性質としては同じですが、やはり卓球は他のラケット競技と比べるとドライブ回転の生み出し方は特殊な気がします(もちろん、打球面の素材=ラバーが最大の理由です)。
特に卓球では、スピードと回転の度合いを配分するときに、局面によっては安定した打球を求めて[スピード0:回転10]にすることがあります。このとき、ラケットを振る方向とラケット面が平行になります(下図【A】)。
さらには、相手のドライブ回転に対してドライブ回転をかけ返す場合、相手の打球の進行方向すらも平行に近い状態になることがあります(下図【B】)。
ここでは、なぜ卓球ではそんな極端な打球面の作り方をする必要があるのか、その利点は何か。
ドライブの打ち方の特徴を踏まえながら考えていきたいと思います。
卓球のドライブにおける力のかかり方
摩擦がない場合
まず、ラケット表面に摩擦がない場合。
この場合は、ラケットに垂直な方向の力は反発力となりますが、ラケットに水平な方向の力はそのままスルーされます。
年代物のツルツルラバーでドライブを打とうとすると、図のように力なくポトリと落ちるような打球になると思います。
摩擦がある場合
次に、摩擦を考慮した場合です。
ラケットに垂直な方向の力は先程と同様、反発力となります。
そしてラケットに水平な方向の力もラバーによって「掴む」ような形で力が蓄えられ、摩擦がない場合と異なり、逆向きの反発力が生まれます。
このときの反発力とラケットの振る方向の力を合わせた力が、球の推進力や回転力となって打ち出されます(下図【B】)。
どの程度の割合で推進力と回転力に分配されるかは、ラバーの種類によると思います。球のラバーへの食い込みの程度、エネルギーロスの程度などが影響してくると思われます。
ドライブが安定した技術である理由
1.回転の効果により弧線を描くため
ドライブ回転が強ければ強いほど、進行中の球に落ちる力がはたらき、弧線を描きやすくなります(マグヌス効果)。
直線的な球よりも弧線を描いた球の方が台に収まりやすいというのは、あえて言う必要もないかと思います。
2.球が打ち出される方向をコントロールしやすいため
例えば極端な話、「相手のドライブ回転の打球をフラット打ち(スマッシュ)で返したい!」と思ったとします。
このとき、球のスピードと回転量を正確に把握できていれば、いい感じの打球が決まって相手を黙らせることができます。
しかし、これを把握できていないと何が起こるでしょうか。
ここでは仮に、以下の2種類のドライブを打ち返すこと考えます。
【B】[スピード7:回転3]のドライブ
なお、ここから先の議論では球を打ち返す際にかかる力のうち、半分ぐらいが推進力に、半分ぐらいが回転に使われると仮定しています。
2-1.フラット打ち(スマッシュ)で返す場合
以下の図では、
【B1~B3】[スピード7:回転3]の打球を打ち返す場合
を示しています。
フラット打ちの場合、最終的に打球が打ち出される方向と強さ(黄色矢印)は、両者で少し異なっていることが分かります。
2-2.ラバーに引っかけて(ドライブで)返す場合
続いて、ドライブで打ち返す場合です。
【B4~B6】[スピード7:回転3]の打球を打ち返す場合
だいぶごちゃごちゃして分かりにくくなってしまいましたが、注目して欲しいのはドライブで返す場合、打ち出された球にかかる力の総和が水平方向と垂直方向でそんなに変わらない点です(個々の成分の大きさは違うにもかかわらず)。
各条件で打ち出された球の方向ベクトルだけを、以下の図に抜き出してみました。
【D】ドライブ時の球の打ち出し方向
スマッシュ時は球の打ち出し方向も力の大きさもバラバラですが、ドライブ時はほとんど変わらないといってもいいレベルです。
今回の例では違いを分かりやすくするために[回転7:スピード3]と[回転3:スピード7]という極端な例で考えましたが、要は「ドライブ回転の球に対してドライブを打つ場合、擦る力が強いほど、多少の回転の読み違いは無効化できる」ということになります。
長くなりましたが、これがドライブが安定しやすい2つ目の理由です。
結論
以上のように、ドライブを打つことによって質の良い安定した球を打ち出しやすいといえます。
また、卓球独特の「極端なまでに擦る打ち方」になる理由は、そのような打ち方をしてもラバーがラケット面に対して水平方向の力をほとんど受け止めてくれるからです。
この辺の「回転がもたらしてくれる安定性」を把握することが、初心者脱却のひとつのカギといえるのではないでしょうか。