さて、今回は卓球の中でもいちばん地味かもしれない技術、ツッツキについてです。
地味といっても相手の球の回転によって押す・切る・運ぶなどの異なる感覚が必要で、非常に重要な技術です。ストップやフリックなどの台上技術をマスターするための前段階として、まずはいろいろなツッツキの打球感覚を養うということが重要だと私は思います。
ここでは、最も基本的な下回転に対するツッツキに加え、それより回転量が少ない場合(ナックル)と回転量がかなり多い場合(カット)で球のとらえ方がどのように変わるかを見ていきたいと思います。
- 普通の下回転の球に対するツッツキ
- ナックル性の球に対するツッツキ
- カットに対するツッツキ
0.使用する知識
当サイトでは物理現象寄りの説明をするために、ベクトルの矢印を多用しております。
以下の内容を読んでみても矢印の意味が全く分からんという方は、まずはトップページから「ベクトルの章」「回転の章」などを読み進めていただければと思います。
1. 普通の下回転の球に対するツッツキ
まずはツッツキのベースとして、いちばん最初にマスターしておきたい打ち方です。
ラケット面をやや上に向け、面を球の方向に向けたまま「押す」イメージで打球します。この打ち方では、相手の球の回転を受け止めて同じような回転の球を返します。
相手の球の回転量やバウンドの高い・低い、浅い・深いなどを見極めつつ、細かいラケット角度やスイングスピード、スイングの方向などを微調整していきましょう。
この打ち方は最も基本的であるがゆえに、単純につなぐ以上の攻撃的な効果がありません。よって、この打ち方に慣れてきたら、次の「ナックル性の球に対するツッツキ」で述べるような、自分から「切る」感覚を身につけていきましょう。
※赤い矢印は「球とラケットの相対速度」を表しています。相対速度については、以下の記事をご参照ください。
参考記事:球の反発方向の決まり方
2. ナックル性の球に対するツッツキ
回転のかかっていないナックル性の球に対して「1. 普通の下回転の球に対するツッツキ」と同じように打球すると、フワリと浮いてしまいます。
だからと言って、球が浮かないようにラケット面を立てて返球したとしても棒球になってしまうので、次で攻め込まれる可能性が高いでしょう。
そこで、ナックル性の球に対してツッツキで返す場合、こちらから回転をかけていく意識が必要です(ただ、そういう球に対しては、できれば攻撃したいですが)。
先ほどと比較して、「押す」意識よりも「切る」意識を重視します。「切る」の言い換えとして、回転をかけるとか擦るとかがあります。物理的に言うなら、図のようにラケット面と平行か、それに近い方向にスイングを行います。
こうすることで、【B2】のように、球がラケット面を垂直に押す力(=回転に関わりのない力)を小さく抑えられます。その分、ラケット面と水平な方向に発生する摩擦力を大きくすることができ、その反発エネルギーの一部を回転に振り向けることができるのです。
ちなみに、上の図【A】と【B】では、ラケットのスイングスピード(青矢印)を同じ大きさにして描いてしまいましたが、この条件で【A3】【B3】の「球が飛び出すスピード(黄色矢印)」を比較すると【B3】の方が短いことが分かります。同じスイングスピードでナックルに対して回転を与えようとすると、どうしても打球の速度が落ちてしまうことを示しています。
余談ですが、粒高ラバーを利用した無回転の球を織り交ぜた戦型が成り立つ理由のひとつは、この辺にあると思います。
回転のかかっている球はちょっと触っただけで勝手に飛んでいきますが、無回転の球に回転と威力の両方を与えてやるのは、案外大変なんですね。粒高ラバーに慣れていないと、この緩急に対応できなくてやられてしまいます。
ということで、ナックルに対するツッツキでは、球のスピードを確保するためにややスイングスピードを上げて切る必要があります。感覚的に言ってしまうと、基本の「押すツッツキ」に比べて前腕に気合を入れて切る感じです。
3. カットに対するツッツキ
最後に、カットに対するツッツキについてです。
カットボールは通常の下回転系の球と比較してかなりの回転がかかっています。ラケット面の角度次第で、基本的なツッツキと同じように「押す」ことで返せますが、その場合、相手の球の回転に負けないために、より薄く当てていく必要があります。
しかし、この「より薄く当てる」作業は、以下の理由などにより難易度が上がります。
- カットボールの速さや回転量に応じてバウンドの反射角が変わる中、バウンド際を薄くとらえるのは難しい
- バウンド際の球(=浮き上がってくる球)の上部を薄くとらえるのは比較的簡単(カウンタードライブなど)だが、下部を薄くとらえるのは難しい
そこで、カットに対するツッツキでは、積極的に切って返すのではなく、球を持ち上げるようにやわらかく打球していくことが多いです。
先ほどのナックルに対する「切る」感覚とは逆に、「切らない」感覚が重要です。
「切らない感覚」を言い換えると、「ラバーに球を食い込ませない」とか「球とラケットの接触時間を短くする」とかです。これによって、相手の回転の強さの影響を軽減することができます。
また、この打ち方ではラケット面に対して垂直方向にスイングしており、これは薄く当てることによる難易度の高さを解消するスイング方向であると言えます(下図参照)。
【C4】打球面積が広く、当てやすい
【C5】打球面積が狭く、当てにくい
回転を読み違えると返球が浮いてしまう可能性もありますが、このツッツキは基本的にカットマンのカットに対する打ち方なので、ツッツキを読まれない限り打ち込まれる可能性は低いと言えます。
ブチギレのカットを確実に返す方法として、練習しておきましょう。
まとめ
ここでは、ツッツキの打ち方とその力のはたらき方を、3つに分けてご紹介しました。
改めて、ナックルとカットに対するツッツキの特徴を表にしてまとめます。
VSナックル | VSカット | |
感覚 | 切る | 切らない(触る) |
ラバー | 食い込ませる | 弾く |
接触時間 | 長い | 短い |
接触面積 | 大きい | 小さい |
スイング方向 | ラケット面に平行 | ラケット面に垂直 |
類似技術 | サーブ | フリック |
※言い換えただけで、同じことを言っている項目が多いです
最も基本的なツッツキは、ちょうど両者の中間に位置する技術と言っていいでしょう。
表の最後に書きましたが、個人的には以下の技術で似たような感覚を使うと思います。
- ナックルに対するツッツキ → サーブを切る感覚
- カットに対するツッツキ → フリックを打つ感覚
特に台上技術が苦手という方は、ツッツキでいろいろな打球感覚を養ってみるのはいかがでしょうか?
まずは足をあまり動かさなくてもいいツッツキで打球感覚だけ身につけて、そこから短い球への対応のためのフットワークを含めて考えていく、というステップアップの仕方はアリだと私は思います。