卓球の試合中にアドバイスを受けるとき、「サーブ考えて」みたいなことを言われたことのある人は多いのではないでしょうか。そしてそれに対して「とはいえ、何を考えるべきか、よく分かってないんだよなあ…」という人もまた、多いのではないでしょうか。
この記事は、そんなあなたに向けて書いております。読むと、以下のようなことが分かります。
- 試合中に「考えて」とアドバイスする人の本音
- 試合中に「考える」ことができるようになるための具体的な方法
「考えて」というアドバイスの裏側
「考えて」という人の心理を考える
試合中に「考えて」と言われると、「ああ、自分は考えながら卓球をしていないんだな」と、ちょっとネガティブな気持ちになりませんか?私は正直、このアドバイスって選手側にとっては全くプラスにならないと思うんですよね。
- 考えている人:「考えとるわ!」=怒りの気持ち
- 考えていない人:「そうは言っても、どうすればいいか…」=自信の喪失
どっち側の人にもマイナス。それでもこう言ってしまう人というのは、結局その人自身が何も考えていないから具体的なアドバイスができないということではないでしょうか。
優秀な人のアドバイス〜私の体験談〜
私がとある5ゲームマッチの試合で、ゲームカウント1−2と劣勢を強いられていた時のこと。
ふらっと通りかかった上級者のチームメイトが、インターバル中にアドバイスをしてくれました。
相手はバック側を大きく空けてるからバック側を狙いたくなるけど、相手はそれだけバックハンドに自信を持ってるってことだから、あんまり空いてないけどフォア側への打球の割合を増やしてみて。
理由まで理路整然と語られたこのアドバイスは私の中にスッと入ってきました。それまで「空いている場所が狙い目」とばかりに思考停止でバック側に打っていた私は、このアドバイスを実践し、逆転で勝ちを収めることができたのです。
この時の私は逆転勝利そのものよりも、こんな的確なアドバイスができる人がいるんだ、ということに感動していました。
「考える」ことができるようになるために
もっとも、そんな風にアドバイスをしてくれる人はなかなかいません。考えられる理由はいろいろあります。卓球という競技がとりわけ感覚が重視されるというのも理由のひとつです。選手が若くして大成しやすい(つまり、頭を使う理論よりも身体を使う実践重視で育つ人が多い)のも理由のひとつでしょう。
では、どのようにして「考える」力を身につけていけばいいのでしょうか?
身体を動かす練習だけがすべてではない
私としては、卓球場以外で卓球について考える時間を増やすことが重要だと思っています。やみくもに練習していても、自分の問題点に気づくことは非常に困難です。
その辺の流木を見て、普通の人は単なるガラクタだという見方を一生変えないと思いますが、別の見方を身につけていれば売り方次第でお金になると気づきます。ただ、流木をガラクタだと思っている人にとっては、その気づきは一日中、流木を眺めているだけでは得られないことでしょう(才能のある人を除いて)。大多数の人は、そういった考え方もあるということを、まずは知る必要があります。
当サイトで提供している、戦術理解のための材料について
当サイトでは、自分なりの戦術の考え方を確立するために必要な材料を提供しています。
戦術解説書というのは、私が主に卓球の国際試合を題材としてその内容を独自にまとめたものです。戦術解説のほか、解説の和訳を通して選手の人物像などにもフォーカスしています。無料で公開しているものもありますので、ぜひ動画を見ながら参考にしていただけたらと思います。
また、有料のものについては、特定の戦術がなぜ有効かを解説した当サイトのページへのリンクや、両選手のサーブからの得点率やラリー数分布などをまとめた数値データも公開しています。より深い分析にお役立てください。
学習による効果
戦術解説書を片手に試合の動画をいくつか眺めつつ勉強していると、以下のような効果が現れてきます。
- ある選手が優勢に(もしくは劣勢に)なるパターンが見えてくる
- そのパターンの根本にどのような理屈・法則があるのかが見えてくる
- 解説なしでも、得点・失点の原因が瞬間的に分かるようになってくる
もちろん、何かが見えてくるまでには数をこなす必要があります。ただ、これは特別難しいことではなく、算数の計算ドリルのように反復学習で身につけていくことができるものです。当サイトの戦術解説書には、試合を分析的に見るためのヒントが散りばめられています。
満を持して練習に向かおう!
ここまできたら、あとは自分の戦術を考えるだけです。この段階では練習を通しての試行錯誤が必要で、ここで活躍するのが、いわゆる卓球ノートです。実際の練習を通して、気づいたことを記録していきます。1.と2.を通して、あなたの卓球脳はだいぶ出来上がってきているはずですので、練習の中で今までスルーしていたミスの原因にも気づけるようになります。
これは戦術構築に役立つだけではなく、メンタルの安定にも役立ちます。それまでは「なんで入んねえんだよ!」とイライラしていたのが、「今のミスは相手のツッツキが深かったからだ」などと思考するようになります。原因が分かるか分からないかで、メンタルに与える影響がだいぶ変わります。
原因が分かれば、次はその対処法に頭を使うことになります。「あの深いツッツキにどう対処するか」「そもそもあれを打たせないように何をすべきか」という感じです。思考に脳のリソースを使うため、ミスにイライラしている余裕がなくなり、イライラしなくなります。
最初のうちは、その試合中に答えが見つからないことがほとんどでしょう。しかしこれも反復と蓄積です。繰り返しの中で「自分の武器はこの場面で意外と生きる」というような発見があります。しかもそれは1.や2.で培った知識や理論と矛盾がないか判断することもできるので、自分の戦術が間違っているかもしれないと自信を失うことも少なくなります。
手持ちの武器によっては、まだ誰もやっていないようなオリジナリティのある戦術を思いつくかもしれません。そうなれば多くの人にとって「やりにくい相手」と言われるようになるでしょう。理論上、確率の高いことをしつつも、常識にはとらわれない。個人的には、伊藤美誠選手がこの領域に到達している気がします。
まとめ
いかがでしょう。戦術を考える際には、すでに知られているパターンをインプットするだけでは不十分で、なぜそのパターンが有効なのかまで落とし込むことで初めて自分なりの戦術へ昇華させることができるということが伝わればと思います。
パターンAが有効なのは理屈Aがあるからで、だったら俺の考えたこのパターンBも根本的には同じ理屈Aを基にしてるからいけるだろ
という感じです。
先ほどの流木の例でも、そのものの価値を深いところまで考えることによって、流木だけでなくいろいろなものにビジネスチャンスが潜んでいることに気づくことができるようになります。
当サイトの戦術解説書と卓球の物理学が「戦術を考える」力の向上に役立てばと思っています。ぜひ一度、目を通してみてください。※ライバルには内緒で(笑)