卓球で練習を始めるときには、まずフォア打ちでクロス方向のラリーから始める方がほとんどではないでしょうか。
試合前の準備運動でも対戦相手とラリーを行います。そのほとんどの場合は、クロス方向のラリーを続ける形で行われます(上級者になるとストレート方向でも)。
また、試合中でもクロス方向の打ち合いという場面が結構あります。
特に女子シングルスを見ていると、バッククロスへの打ち合いを続けながらストレートへ打つチャンスを伺うようなラリー展開を見かけることがあります。
これらすべてのことから分かるように、同じ方向へ打球するのとコースを変えて打球するのとでは、後者の方がちょっと難しい。
その理由はいくつかあります。単純にストレート方向の方が距離が短いというのもそのひとつ。
今回は、そのうちのひとつの理由として考えられる「コースを変える際にはラケット面の角度を気にする必要がある」点にクローズアップしてみたいと思います。
卓球というスポーツは回転に左右される部分が大きく、コースを変える際のラケット面の角度についてはそんなに意識しないかもしれません。
ここではそんな回転の影響に埋もれてしまいがちな、打球コースを変える際のラケット面の角度について考えていきます。
以下の議論では、簡単のためすべて横回転の影響を無視しています。
打球コースを変えない場合
まずは、打球コースを変えない場合(クロス対クロス、ストレート対ストレート)についてです。
この場合、球が飛んでくる方向とラケット面が垂直になるような角度で打球すれば大丈夫です(余計な横回転がかかっていない場合)。
これは相手の球のスピードや自分のラケットのスイングスピードによらず、同じ角度で対応できます。
打球コースを変える場合
概要
これに対して、打球コースを変える場合は少し注意が必要です。というのも、同じ角度でも相手の球のスピードや自分のラケットのスイングスピード(&方向)によって打球方向が変わってしまうからです。
下の図は、いずれもクロスからきた球を、ラケット面をストレート方向に垂直にして打球した結果です。
【D】スイングあり(プッシュなど)
ベクトルを使って、もう少し詳しく見ていきましょう。
※ここから先は、ベクトルの合成と分解、および相対速度の知識を用います。
参考記事:ベクトルの合成と分解、球の反発方向の決まり方
状況別の打球方向
実際的な観点から、以下の3つについて考えてみます。
- 速い球をブロック
- 速い球をカウンター
- 遅い球をスマッシュ
遅い球をブロックというシチュエーションはあまりないと思うので、観点から外しました。
1.速い球をブロック
ブロックにもいろいろありますが、ここでは便宜上「ラケットを動かさない」という意味で使っています。
相手の球の威力のみを使うので、鏡面反射の原理を利用してラケット面をやや内側に向ける必要があります。
参考記事:鏡面反射と反発係数
2.速い球をカウンター
ブロックのときと異なり、相手の球の威力に自分のラケットスイングの力が加わります。この場合、球が飛んでいく方向は球が本来反発する方向と自分のラケットスイング方向の合成ベクトルになります。
よって、先ほどのブロック時よりもやや面をストレート側に向けて打球する必要があります。
球が飛んでいく方向について、詳しくは以下の記事に書きましたが、ちょっと難しいかもしれません。
参考記事:球の反発方向の決まり方
3.遅い球を強打
最後に、自分のスイングの力はあるけど、相手の球に力がない場合を考えます。
上図より、ラケットのスイング方向と合成ベクトルの方向がほぼ同じであることが分かります。
この場合は、相手の球の威力がほとんど無視できるので、ラケット面はほぼストレート方向に向けて打球すれば良いことになります。
まとめ
卓球では、実際には「余計な横回転」がかかっていることがほとんどで、どちらかというと回転の影響をより強く受けてしまうので、今回のような話はあまり意識することがないかと思います。
しかし、打球のコースが相手の球のスピードや自分のスイングスピードにも影響を受けることを知っておくことは、より厳しいコースを狙うにあたって(または、より安全な返球をするにあたって)ひとつの判断材料として重要になってくるのではないでしょうか。
感覚的に表現するなら、
- ブロックの際にはラケットの角度重視
- 攻撃していく場合にはラケットのスイング方向重視
これだけでも最低限おさえておくといいと思います。あとは相手の打球速度と自分のスイングスピードとの比率になってきます。
卓球というスポーツはそんなこと考えてる暇がないくらい目まぐるしいスポーツなので、今回のような話は、最終的には感覚を身体に覚えさせておくことが大事です。
しかし、練習の段階からそれらの影響を意識するのとしないのとでは、上達具合に影響が出てくるかもしれません。