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チキータに対して縦回転サーブが有効な理由を考える

卓球ジャパン!という番組(2019年1月12日放送)で、グランドファイナル2018女子シングルス1回戦の伊藤美誠VS鄭怡静の試合が取り上げられ、分析されていました。その中で、「鄭怡静選手は縦回転のサーブで伊藤美誠選手のチキータを封じている」というようなニュアンスの解説がありました。

確かに、その試合ではいわゆる「みまチキ」があまり炸裂していないように感じました。特に第3セットあたりは、チキータの構えからツッツキに切り替える局面がいくつかありました。

縦回転サーブでチキータを封じるとはどういうことでしょうか。今回はこれについて考えていきたいと思います。

縦回転サーブについて

ここでいう「縦回転のサーブ」とは、いわゆる「下回転サーブ」「真下回転のサーブ」のことです。特にサイドスピンがかかっていない状態のサーブを指します。

縦回転サーブ

チキータについて

定義

チキータという技名が世に浸透して久しいですが、そもそもチキータの定義というのは明確に決まっているわけではないと感じます。ここでは、私が感じた「見解が共通しているポイント」と「見解が異なるポイント」をまとめます。

共通しているポイント

以下の点について異論のある人はいないと思います。

  • バックハンド系の技術である
  • 回転系の技術である

また、打ち方(フォーム)に関しても、概ね見解が共通しているといえます。

  • 肘を高い位置(肩~顔付近)まで上げてテイクバックのための空間を作り、
  • 手首を内側に巻いてラケットヘッドが下側(自分側)に向いた状態から、
  • 裏拳を出すように振りぬいてインパクト

異なるポイント

以下の点については、人によって意見が分かれるところです。

  • 横に曲がるか否か…横に曲がらない場合、台上バックドライブということがある
  • 台上で打球したか否か…台上での返球以外の場合は、単にバックドライブということが多い
  • ドライブ回転か否か…カット性の打球でもチキータという場合がある(かも)

当サイトでの見解

当サイトでは、チキータの特徴である「台上」「攻撃的」に打てるという点を重視し、台上の球に対して(上記の打ち方で)横回転~横上回転~上回転で返球する場合をチキータと呼ぶことにします。

「回転の向き」「打球位置(台上か否か)」の2軸で図示すると、以下のようなイメージです。台上バックドライブもチキータに含めて考えます。

チキータの領域

※ここに挙げた「横回転から下回転にかけての技術」はそもそもチキータとは根本的に打ち方が異なりますが、あまり深く考えないでください

縦回転サーブでチキータを封じるとは

2つの技術の特徴を把握したところで、いよいよ本題に入っていきます。縦回転サーブでチキータを封じるとはどういうことか。私は以下のように考えています。

1.単純に縦回転サーブはレシーブが落ちやすい

サーブをどの方向にも同じ強さで切る(回転をかける)ことができると仮定すると、この縦回転のサーブがレシーブ時に最も下に落としやすいサーブになります。チキータで擦り上げるのがいちばん大変な回転といえます。

下回転と横下回転の比較

【A】下回転の場合…フラットで打球した際に落ちる(黄色矢印)
【B】横下回転の場合…下回転のときと同様に落ちるが、下方向の成分はいくらか減少する

矢印の意味が分からない方は、↓こちらをご参照ください。

参考:ベクトルの合成と分解

2.縦回転のサーブはチキータで威力を出しにくい

チキータで最も威力が出るのは、上の図でいう「台上バックドライブ」の領域です。純粋なドライブ回転をかけるため、打球後の球に沈む力がかかりやすく(=台に収まりやすく)、その分、威力を上げることができます。

そして台上バックドライブを打つためには下図【C】のように球の中心部分をとらえる必要がありますが、この位置は縦回転サーブで「最も回転が強い領域」と重なります(下図【D】)。

台上BDと縦回転サーブの関係

【C】台上バックドライブ(&チキータ)の打球点
【D】縦回転サーブの回転の強さ

そのため、強い縦回転に負けないだけのスイングスピードが必要になってきます。見出しの「威力を出しにくい」というのは、威力を出そうとすると球の回転が強い領域をとらえる必要があり、リスクが上がるという意味合いです。

横回転が入ったサーブでは、回転軸がずれる分だけこの領域もずれます。より回転の影響を受けずに強い打球を打てると考えられます。

伊藤選手の場合

伊藤選手のチキータは「みまチキ」という名がつくほど独特で、どちらかといえば威力重視ではなく横回転で変化をつけて相手を惑わす狙いがあるように思います。主にフォア側にきた短めのサーブに対して発動しています(バック側に対しては弾くような攻撃的レシーブが多い)。

横回転の入ったチキータは、一般に球の中心(後ろ側、奥側)を外して打球します(上図【C】参照)。しかし、フォア側の球をチキータしようとすると、バック側の球と比較して、より球の中心に近い部分をインパクトする必要が出てきます(打ち方にもよりますが)。下図のようなイメージです(右利きの場合)。

フォア側とバック側のチキータの違い

【E】フォア側の球に対するチキータの打球面と方向
【F】バック側の球に対するチキータの打球面と方向

中心に近い部分をインパクトするということは、それだけ縦回転サーブの影響を受けやすいということです。

このように考えると、一般的な場合と多少事情は異なりますが、みまチキの場合も縦回転サーブが効果的になるのかもしれません。まあ、この辺はそんなに気にするところではないかもしれませんが。

まとめ

今回は「縦回転サーブでチキータを封じる」について考えてみました。

卓球にはいろいろと名前のついたサーブがありますが、なんだかんだで純粋な下回転サーブって地味に強いですよね。(昔、勝負どころのみでブチギレの下回転サーブを出して、確実にネットミスを誘うプレイスタイルの人がいたことを思い出しました)

派手でカッコいいサーブもいいですが、時には地味だけど効果的な縦回転サーブについて見直してみるのもいいかもしれません。