さて、今回は粒高のカットブロックについてです。
自分の放ったドライブが、ごく小さな振りでカットになって返ってくるという理不尽。卓球を始めて間もない時期にこれを使いこなす人と戦って驚愕したという人も多いのではないでしょうか。
今回のテーマは、粒高カットブロックではなぜバウンド直後をとらえる必要があるのか?そこから深堀りして、なぜ粒高では強烈な上回転を強烈な下回転で返せるのに、その逆はできないのかについても考えていきたいと思います。
粒高ラバーのカットブロックとは
前置きとして、粒高ラバーでのカットブロックについて解説します。
比較用に、通常の裏ソフトラバーでのブロック(下図【A】)と粒高ラバーでのブロック(下図【B】)を取り上げました。
【A】裏ソフトラバーでブロック(上回転→上回転)
【B】粒高ラバーでブロック(上回転→ナックル)
【C】粒高ラバーでカットブロック(上回転→下回転)
【A】【B】ではラケットをほとんど動かさず、【C】のみ上から下に切るようにラケットを動かします。
さて、別記事で書きましたが、粒高ラバーから生み出される球質には、主に下記の3種類があります。
- ナックル系(回転の無効化、上図【B】)
- 回転を逆にして返す(回転の保存、上図【C】)
- 自分から回転をかける(回転の生成)
このうち、カットブロックは2.回転を逆にして返すにあたります。ラケットの振りは、上から下へ落とすような振りです(技術的な部分は、ちまたの技術動画をご覧ください)。
前に振らないのは、球の回転の力が強く、そのエネルギーだけで相手コートに戻る力が十分あるからですね。
なぜバウンド直後をとらえるのか
粒高カットブロックについておさらいしたところで、ではなぜバウンド直後をとらえるのか、という点についてです。
その方が安定するから?ではなぜその方が安定するのでしょうか。
私が考える最も重要な理由、そのキーワードは相対速度です。
相対速度についてはこちら:球の反発方向の決まり方
粒高で回転を逆にして返すときのスイングの特徴
回転を逆にして返すには、来た球の回転に逆らわないことが重要です。
つまり、スイングの方向とラケットに接触する部分の球の回転方向が一致している必要があります。
下記、参考記事内でも詳しく解説しています。
球の進行方向を加味する
上図ではラケットのスイング方向しか図示していませんが、もうひとつ、考慮すべき要素として球の進行方向があります。ここではバウンド直後と頂点通過後の2点で比較してみましょう。
【A】バウンド直後(頂点前)
【C】頂点通過後
これらを比較したときに、バウンド直後の球は上に向かっているのに対し、頂点通過後の球は下に向かっていることが分かります。
対して、ラケットのスイングは下に向かっていました。
この2つの要素を考えたとき、それぞれの打点では以下のような状況になっていることが分かります。
【A】バウンド直後…スイング方向と球の進行方向は逆方向
【C】頂点通過後…スイング方向と球の進行方向は同じ方向
つまり【C】頂点通過後の方は、スイングスピードが球のスピードで相殺されている状況です。スイングスピードが球のスピードに負けてしまうと、球の回転が保存されずにナックルになって返ってしまいます。
それに対し、【A】バウンド直後でとらえた場合、球が上に向かってくる力を利用して、スイングスピード以上の効果が得られます。回転量の多いドライブに対しても、球の回転をしっかり維持した返球が可能なのです。
技術を相対速度で考える重要性
「本当は相対速度の影響なんて微々たるもので、実際は返球のタイミングが早いと有利だからバウンド直後が推奨されてるだけじゃない?」
こう考える人もいるかもしれません。
なので、ここからは私が今回の相対速度の話が重要であると考えている理由を紹介したいと思います。
結論から言ってしまうと、その理由は下図のような技術が確立されていないためです。
相手が中後陣からカットをしてきて、それに対して浅く、回転のかかった短いドライブで返す技術。
シチュエーションとしては、今回のカットブロックにおける打球前後の回転をすべて逆にした場合になります。しかし、このような技術は聞いたことがありません。
状況だけ見ると、台から離れた相手に対して短く、回転のかかった球を返すということで、効果的な戦術になりうるはずです。
それができないのは、この相対速度の問題を無視することができないからだと思います。
ドライブ回転で返すということはラケットを上方向に振るわけですが、これがバウンド直後の球の進行方向と同じ方向なのでスイングスピードが相殺されてしまう。強い下回転を強い上回転で返すことができないのです。
※実際、粒高のカットブロックではラケットを「振る」というほど振っていません。「下に落とす」ぐらいのイメージです。それで上回転の球を下回転に変換できるわけですから、スイングスピードよりもむしろ球の進行方向の影響の方が大きいとも考えられます。
これを解決しようとすると、以下のような対応が求められます。
- バウンド直後を狙い、スゲー頑張って振る
- 球が頂点を過ぎるまで待ってから打つ
しかし1.については、
- 台上で
- バウンド直後の球を
- スゲー頑張って振る
のは、かなり難易度が高いと考えられます。
また2.の場合は、打点を遅らせることで威力のないフワフワしたドライブになってしまい、相手にとってはあまり脅威ではなくなります(むしろ狙い打たれる可能性も)。
早い打点で試合を組み立てていく粒高プレイヤーにとっては、相手の上回転を利用して切れたカット性の球で返球することはできても、相手の下回転を利用した効果的な上回転は物理的に難しいということです。
まとめ
今回は粒高のカットブロックについて深堀りをしてみました。
こうやって見ると、
- 前陣で変化をつけやすいから市民レベルで普及した
- 攻撃力不足により、全国レベルでは普及しなかった
そのひとつの理由が見えてくるような気がします。
相手の回転を利用して強烈な上回転で返球する術があったなら、全国レベルで粒高ラバーを使用するプレイヤーはもっと増えていたのかもしれませんね。
それでは今回はこの辺で。最後までお読みいただき、ありがとうございました。